冬の表参道はその寒さが気にならないほど陽気でハイな空気が満ちていて、それは街を歩く上機嫌な人々 がつくだしている一種独特の魔法のようなものなんだと思います。ところがこのリポートを書いている 僕には、昔から原宿という場所にはミーティングでカフェに立ち寄る以外はこれといって来る理由がな く、仕事が終わると地下に潜っては半蔵門線で去っていました。
そう・・今回紹介する「PIZZA KAVELOS」でピザを食べるまでは。
裏通りこそ僕たちが望んでいる本質的な新しさがある。
どうして僕が原宿に足が向かないかというと、歩いても歩いてもマーケティング臭さが漂ってしまって いるからなんですよね。わかりやすくお話しますと、例えばアパレルもレストランもアップルまでもが 表参道にお店を構え、とりあえず最新のアイテムと流行を発信させようという単純すぎる流通の構図に、 僕としては面白さを感じることができなくなってしまったのです。
まあ、僕自身がななめを向いて生きているということもありますが(笑)
そんなわけで、気がつくと大通りから路地に入りふらふらと散策をしてしまうのが僕の習性なんですが、 表通りから離れて人通りが少なくなればなるほど、マーケティングをいっさい無視した面白いお店があ るという法則はこの街でも通用することが最近わかりました。
こうるさい大人たちの五感を満たしてくれるピッツェリア。
そして原宿という名を冠した裏通りだけあって、捻くれ者たちの五感を刺激してくれる猛者が生息して いるのです。「PIZZA KEVELOS」を紹介するいちばんの理由がその「刺激」です。
店舗は外観もインテリアも一見しただけでは、そんな刺激があるなんて思えないほど、洗練されたデザ インです。原宿では珍しいOPENテラスも裏通りならではの楽しさなんですが、真冬ということで今回 は大人しく店の中に入ることにしましょう。
何度も通っていますがスタッフさんたちの気配りも素晴らしく居心地の良さは保証します。
窯焼きのピザをメインに、アンティパスト、ワインと麦酒を美味しく飲むための肉料理が揃っています が、不思議とイタリアンな雰囲気がしないのも魅力のひとつで、いい意味で気楽さがあるんです。
そう!馴染みの居酒屋にいるようにリラックスできる柔らかい空気感。 それをクリエイトしたのがKEVELOSの代表取締役でピッツァイオーロ(ピザ職人)の小原さんです。
小原さんの経歴が凄くユニークかつ男気にあふれているのです。この業界に入る前は、もともと建築の内装を施工する叩き上げの職人で、現場管理者としても活躍されていました。
そんなある時、トマトとニンニクとオリーブオイルというシンプルな材料だけでとびきりに美味いパスタに出会い衝撃を受けて、これを作る側になりたいという衝動にしたがい建設業を辞め、今まで縁もゆかりもなかった飲食業に転職。窯焼きピザの激戦区中目黒のピッツェリアで修行に入ります。
当初は慣れないことで相当苦労をされたようですが、建築の現場で磨き上げた職人気質と努力によって頭角を現し、ピザ好きなら知らない者はいないであろう名店で店長を任せられること6年あまり。マネ ジメントとスタッフの育成をしながら窯の前でピザを焼きつづけました。
そして2年前、自分の新たなステージとしてKEVELOSをOPENさせたのです。
小原さんの挑戦はピザ業界ではかなりの「異端」です。いや、僕から言われせれば社会的にもアウトロー な道を選択しています。
それが、チーズを使わないピザ「マリナーラ」で勝負をかける、ということです。
一般的にピザと言えばチーズを使うのが当たり前で、ナポリピザと言えばマルゲリータじゃないですか。 ところが、小原さんは断言します。マルゲリータでは病みつきになるピザは作れないと。そして「チー ズを使えば誰だってそこそこ美味いピザは焼けるけど、本当に美味くて無性に食べたくなってしまうピ ザは材料がシンプルなマリナーラなんですよ」と力強く語ってくれました。
ひと言で表すなら「ごまかしがきかない」のがマリナーラです。
いきなりですが「ピザにチーズはまったく要らないんですよ」という持論を主張させていただいている僕(@ka__zz)です。チーズがなきゃピザって言わねえだろ?と思った皆さま。この記事を読んだら確実にマリナーラを食べたくなりますって!そう[…]
そうです。たくさんの材料を複雑にかけ合わせて足していくのが現代の食文化の潮流です。それを最小 限まで削ぎ落としながら美味さを追求する・・
これこそが小原さんの哲学であり生き方にも通じる美学なんだと思うのです。
実際に小原さんの仕事はそれを裏付けるように繊細な作業の積み重ねです。
小麦、水、トマト、ニンニク、オリーブオイル、バジル、そして塩。
それぞれの素材にこだわり、作る工程のすべてに神経をそそぎ、細部にまで意識を行き渡らせる。小原 さんの表情や手の動きを見ていると、この領域にたどり着くまでには、僕たちの想像をはるかに超える 努力と試行錯誤があったことが、ひしひしと伝わってきます。
百聞は一見に如かず、ぜひともカウンターに席をとって本物の職人技をご覧ください。
そして、小原さんに目標にしているお店を聞いてみると「ピッツェリアとかイタリアンレストランじゃ ないんですよ」と返してきました。ではどんなお店なのか?その答えに度肝を抜かれます。
「目標にしているのはラーメン二郎です」
真夜中でも行列を作って待つお客さんたち。中毒とも言えるジロリアン(ラーメン二郎の熱狂的マニア) たちの存在。そこをピッツェリアとして目指していると力強く断言しました。この志の高さと独特の視 点こそがKEVELOSの魅力となり、事実足繁く通うオーディエンスを生み出しています。
全国のピッツェリアを食べ歩いた僕がマリナーラを推す理由。
文字通り「職人技」がたっぷりと詰まって焼きあがったマリナーラがこれです。
店名である「KEVELOS」実はイタリア語ではなくて小原さんによる造語なんです。
その由来は、料理を食べた時に「めっちゃ、うまっ!」と感じるまでの速さを追求するという意味を込 めて、スペイン語の「Que veloz !」(なんて速いんだ!)から来ているそうです。そして僕たちが焼きた てのマリナーラにかぶりついた瞬間、脳を突き抜けるような美味さに感動することになります。
熱々のマリナーラをひと口頬張った時の、その刹那の感覚。
視覚、味覚、聴覚、触覚、嗅覚・・その全てを満たし、さらには五感では捉えることが出来ない、つま りは感覚を超えた”食べる喜び”を感じさせてくれるはずです。
それこそがKEVELOSのマリナーラであり、日々の鍛錬と小さな小さな努力の積み重ねが、見えない隠 し味となって食べる者のハートにまで届くのです。

最後に、マリナーラだけではなくて他のピザも相当美味いですよ。
さあ、ここで僕からのアドバイスをひとつ。
美味しくピザを食べる秘訣は、焼きたてを1秒でも早く食べることです。なるべく窯に近い席に座り、 乾杯やスマホでの撮影はひと切れ食べてよく味わった後に。
それがピッツェリアでの鉄則です!
PIZZA KEVELOSの詳細とアクセス
場所:東京都渋谷区神宮前6-12-4 ヒダノビル1F
電話:050-5257-2149
ランチ: 11:30~15:30
ディナー: 18:00~23:00
公式ページ:http://kevelos.favy.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/pizza_kevelos/